2009年12月12日
岩田
中小企業金融円滑化法の前向きな活用のすすめ
・金融円滑化法の背景と関係当事者の見方
「平成のモラトリアム」を行うと言って世間を騒がせた亀井大臣であったが、結局は落ち着くと思われたところで決着せざるを得ず、出来たのが「中小企業金融円滑化法」であった。
ただし、同法が既存の制度金融と1点大きく違うところは、銀行が同法を適用して返済の繰り延べ等貸し出し条件の変更を行っても企業の格付けの引き下げを行わなくてもかまわないとした点である。
私は、10月10日の勉強会で発表した「平成モラトリアムについて考える」でも述べた通り、この10年間、銀行は金融庁の指導のもと画一的な判断基準によって信用格付けを行い、企業の経営資源に関する評価や中長期の持続性・成長性予測に基づく企業の評価を重視してこなかった。
それは銀行が貸付金の返済を猶予したり、受注の落ち込みに対する追加融資などを実行したら、ほぼ自動的に格付けを引き下げなければ金融庁の検査で指摘を受けることになっていたからである。
従来の金融庁の検査で一番重要な部分は、この格付けの妥当性の検証であり、あまい格付けを銀行が行って貸し倒れ引当金に不足が生じ、バブル崩壊時のような状況になってしまうリスクを防ぐことが金融庁検査の大きな課題であった。今回金融庁が検査マニュアルを見直し、銀行経営のマイナス面からプラス面にも目を向けるようになったのも、時代の要請に応えたものといえるであろう。
その一方で、当事者である中小企業の同法に対する見方がどうかと言えば、添付12月9日付日経新聞の記事「金融円滑化方活用を模索」によると、自社の格付けの引き下げや新規融資の凍結になどにつながる不安や、銀行に同法の利用を申し込むのは利用による悪影響が出ないと分かってからといった、利用歴が残ることにより将来の融資にマイナスの影響が出ることを心配している中小企業が多いようである。
このような企業経営者の不安の原因は、政府による制度の説明不足と銀行側の制度対応への戸惑いがあるためと言えるが、より根本的な問題として現状の企業と銀行との関係が不健全である場合が多いためと思われる。
この関係を健全化しないと同法は有効に活用されないリスクがある。
・金融円滑化法の活用
金融円滑化法では、借り手企業が銀行に対し貸し出し条件の変更の前提となる経営改善計画を提示しなければならない。12月9日の日経新聞の記事には、中小企業診断協会福岡支部が同県の信用保証協会に診断士の無料診断の窓口を設置して、経営改善計画の立案をサポートするとある。
前述の「平成のモラトリアムについて考える」で私が提案した点は次の3点であった。
@ 制度利用に当たっては、企業と銀行がパートナー的立場から協議の上、対応策を作成し、協働して難局に立ち向かう体制を構築すること。(債権者と債務者という対立的立場からの脱却=企業と銀行の関係の健全化)
A 政府は中小企業診断士を使ってその対応策の妥当性を検証することによって、客観性と公平性を保つこと。(企業と銀行双方のモラルハザードの排除)
B 対応策の進捗状況を4半期毎に企業がレポートを作成し、銀行が確認の上、中小企業診断士が検証する。そしてその状況を国民に知らしめる。(破綻した場合には税金を使うため、国民に対する報告義務の履行)
残念ながら今回の制度では、相変わらず企業側が対応策を作成し、銀行がこれを承認するため、上記@の企業と銀行の関係の健全化を図ることは出来ず、結果として先に述べた企業側の不安を払拭することができないのである。また、Aのモラルハザードを防止する対策も十分でない。
さらに、Bの4半期毎の国民に対する報告も、銀行がどれだけ同法を活用したかについて適用貸し出し金額の推移を開示すると言った従来の方式とまったく変わっていない。そのため、既に同法適用の意思がない企業に同法を活用した貸し出し利用を勧め始めたおかしな銀行が出ているとのうわさもある。政府が国民に開示すべきは、制度活用貸出残高の推移ではなく、活用した企業がどのように改善計画を実施しているのか、またその結果業績は改善しているのかといった推移ではないのか。
・企業と銀行の関係の健全化
企業と銀行が共存共栄のパートナーとしての関係を構築することは一朝一夕にはできないことであるが、金融円滑化法を活用する機会に双方がそのような関係を作ることを期待したい。
そのためには、企業は経営改善計画のドラフトを作成した段階で、銀行にその中身について説明すると共に計画策定への協力を申し入れて、完成させることであろう。銀行もそれにより企業の現状と将来性につき明確な情報を共有し、計画実現への共同責任の意識を持つこととなる。これが、パートナーの関係構築のための第一歩となるであろう。
もし、現在の取引銀行がこのようなパートナーとして的確でない場合には、取引銀行を変えることを検討してもいい。お互いが信頼できないパートナーでは共存共栄することは不可能であるし、お互いが不幸である。
私も30年の銀行員時代、取引先の中小企業が倒産し苦労したこともあるが、その場合なぜ社長は実態を教えてくれなかったのか、もし教えてくれていればなんとかすることはできたのにと自分を信頼してくれなかったことを悔やんだものだ。また、韓国の案件で現地の弁護士を紹介してうまく案件が片付いたとして新規に取引ができたことの喜びや、取引先が新興市場に上場することになった際の喜びは銀行員として仕事をする幸せであった。
おそらく、今の銀行員の多くもそのような意識は持っているはずであり、経営改善計画策定について相談を受ける機会に恵まれることは、彼らの仕事上のはげみに必ずなるはずである。